低所得者に対する支援と生活保護制度

2020年01月21日(火)

 日本国憲法は「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と生存権の保障を規定し、これを具現する方策として生活保護法を制定しています。生活保護法の規定に基づいて保護の実施機関が行った保護の開始、却下、停廃止などの処分並びに就労自立給付金の支給に関する処分に不服のある者は生活保護法および行政不服審査法の規定に基づき不服の申し立てができます。まず、その処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に都道府県知事に対し審査請求を行うことができます。審査請求を受理すると、都道府県知事は、行政不服審査法所定の手続きに従い、その処分に違法または不当な点がないかについて審理したうえで70日以内に裁決を行います。この期間内に裁決がない場合は、請求は棄却されたものとみなされます。

 審査請求を経ても、裁決になお不服がある者は、裁決があったことを知った日の翌日から起算して1か月以内に厚生労働大臣に対し再審査請求を行うことができます。再審査請求を受理すると、厚生労働大臣は、行政不服審査法に定める所定の手続きに従い、その処分について違法または不当な点がないかについて審理したうえで、70日以内に裁決を行うことになります。

 処分の取り消し訴訟は、処分について上記の審査請求の裁決を経た後、生活保護法、行政事件訴訟法の規定に基づき提起することができます。生活保護法が制定されて以来、数多くの不服申し立てや行政訴訟が行われ、朝日訴訟等いくつかの訴訟は人権意識の高揚など、社会に大きな影響を与えてきました。

 小倉北自殺事件(平成23年)も注目された訴訟の一つだ。この事件では、60代の男性が、入院中の病院で福祉事務所の職員と面談し、その後数回福祉事務所を訪問したが生活保護申請を提出するには至りませんでした。その後男性は居宅生活に移行して保護が開始されました。しかし、就労を始めると福祉事務所に辞退届けを提出させられ、その翌日には保護が廃止されました。約1ヶ月後、男性は失職したため福祉事務所を訪問しましたが,当日、その翌日も就労を指導され、申請書を提出することができませんでした。数日後、男性は自殺しました。

 男性の相続人らは北九州市に対し父親が生活保護の受給権を侵害され自殺に追い込まれたとして①男性が職員らと面談したときの調査開始義務違反、保護開始決定義務違反②福祉事務所職員らの助言、教示義務違反、申請意思確認義務違反、申請援助義務違反③保護廃止処分の違法性などを主張して国家賠償請求訴訟を起こしました。生活保護の申請に際し申請書を受理しないケースや、一旦生活保護を開始してもケースワーカーが辞退届を強要する行為が常態化していた北九州市の運用の違法性が問われました。

 一審判決は①および②について、保護実施機関は制度の仕組みについて十分説明し、助言を行い、申請の意志を確認し、申請を援助する義務があるとして福祉事務所の一部の行為に助言・確認・援助義務違反を認定、国家賠償法上違法であるとしました。③については、保護廃止は本人の意思や、廃止により急迫した事態に陥る怖れが無いことが要件で、本件の保護廃止は国家賠償法上違法であるとしました。判決は一審で確定。行政機関による申請権侵害の要件を明確にし、辞退を勧めて廃止決定を行うことが違法であることを明確にした点が重要な判例となったのです。

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